僕の明日を照らして (2010/02/10) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
やさしいことと、やさしくすることは、違う。優ちゃんは、ときどきキレて、僕を殴る。でも僕は優ちゃんを失いたくないんだ。隼太の闘いの日々が始まる。(「BOOK」データベースより)
暴力をふるう義理の父。でもそれ以外のときは優しい父。そして暴力をふるってしまった後はどうしようもなく後悔する弱い男性。
一人の夜を迎えるのが怖くて、電気もテレビもつけっぱなしにしないと眠れない少年。一人きりでいなくてもいい夜への執着。
この二人の男性が、少しずつ少しずつ努力して、自分の弱さを乗り越えていく話です。
ただなあ。
この二人の弱さに母親がぜんぜん気付いていないところが引っかかって引っかかって、なんかあんまり集中して読めなかった感じがします。
柔らかい語り口で、好きな文章なのだけど。
瀬尾氏のよいところでもあるのだけど、内容が衝撃的なわりに表現は淡々としています。がーっともりあがって一件落着、という物語ではない。料理や絵本なんかの小道具の使い方はいい感じ。
誰に感情移入して読むかで評価が変わる気もします。
私はのめりこめませんでした、ごめんなさい。
(70点)
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優しい音楽 (双葉文庫 せ 8-1) (2008/04/10) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
駅でいきなり声をかけられ、それがきっかけで恋人になったタケルと千波。だが千波は、タケルをなかなか家族に紹介しない。その理由にタケルは深い衝撃を受けるが、ある決意を胸に抱いて一歩を踏みだした―表題作「優しい音楽」。つらい現実を受けとめながらも、希望を見出して歩んでゆく人々の姿が爽やかな感動を呼びおこす。 (「BOOK」データベースより)
なんといっても感心したのがこの本のラストに収録されている、「ガラクタ効果」。
同棲相手がいきなり、「おじさん拾ってきちゃった」と言い出し、ホームレスのおじさんと年末年始を過ごすことになる男性の話。
いや、これはないだろう、あんまりだ、と思うのだけど、なーんかね、ありそうな感じがしてくる文章なんだよね。
そして、作中、「もう駄目だと思っても走らなくてはならない」というせりふがでてくるのだけれど、普通に書いたら悲壮感が漂ってきそうなこれを、なんとなくすんなり受け入れてしまう、やわらかさがあるのですよ。
この文章は、やっぱ作者の持ち味だよね。
三編収録されていますが、どの作品も「それはちょっと・・・不自然なんじゃ」と思わされる設定で、なのに読後感はさわやか。不思議な味わいです。
(82点)
「何が書いてあるか」と「どう書いてあるか」のどっちに比重をおいて読むかで、面白いと思う本の種類が変わる、ということをどこかで聞き・・・。自分の中で最近バランスが変わってきたなあ、と実感した一冊でした。
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戸村飯店青春100連発 (2008/03/20) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
戸村飯店は、大阪の下町にある小さな中華料理屋。長男・ヘイスケは傍から見ると器用に何でもこなす優等生。次男・コウスケはお調子者で明るい、愛される次男坊。街に馴染めない思いを抱えていたヘイスケは、高校卒業を期に東京で一人暮らしを始めることにしたが・・・。
テーマは家族、かな。
長男目線と次男目線の章が交互にやってくる構成。
一見そつなくなんでもこなし、周囲からの受けもいい、長男。でも内面は、上手く空気を読めない、馴染めない、弟みたいに無条件でかわいがってもらえない、そういうコンプレックスがいっぱい。
一方、とりえらしいとりえがなく、好きな女の子は兄貴に片思い中、「多分この家は俺が継ぐことになるんだろうな」とぼんやり考えている次男。
最初は次男が可哀想で、いけ好かない兄ちゃんだなーと思ったけど、読み進むに連れて兄ちゃんの悩みが身に染みる。頑張れ! って言いたくなってくる。特に、「色々練習して吉本新喜劇の真似をしてみたけれど、すべりまくりでしらけられる」場面がいい。可哀想で応援したくなる。でも、関西のお笑いって、頭で練習して上手くいくものでもない気もして、その空回りも哀しい。
過去の回想場面がいくつか出てくるんだけど、これが見事に「どうして同じ場面なのに見る人が違うとこんなに違っちゃうんだろう」ってくらい違って、兄弟の確執って言うのはこういうところからはじまるんだなあ、と納得。なんかね、本当に身近にありそうな場面ばかりで、共感しました。
性格も外見も真逆な、仲の良くない兄弟。それでも「なんだかんだいったって結局ちょっといい感じ」なのです。家族っていいよね、とストレートに感じさせる作品。
(90点! こういう話、好きです)
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天国はまだ遠く (新潮文庫) (2006/10) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
仕事も人間関係もうまくいかず、毎日辛くて息が詰りそう。23歳の千鶴は、会社を辞めて死ぬつもりだった。辿り着いた山奥の民宿で、睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。自殺を諦めた彼女は、民宿の田村さんの大雑把な優しさに癒されていく・・・。(「BOOK」データベースより)
仕事関係のトラブルにしても人間関係にしても、放り出して逃げ出してしまえばいいだろうに、妙に一本気な主人公の千鶴はそれすら出来ない。「死のう」と決めて、逃げ出すまでは。
瀬尾さんの話は、結構シビアなテーマでも冷たい感じがしない。そこがいい所ではあるんだけど、今回はちょっと・・・甘いなあ、と感じてしまった。
山奥の民宿で、自殺に失敗して、地元の人たちと触れ合って、元気が出て、・・・都会に帰っていく。
私にはどうしても、この主人公が同じ事を繰り返しそうな感じがしてならない。都会で、また仕事を始めて、自分を追い詰めていくんじゃないかと。
(さすがにもう死のうとは思わないかもしれないけど)
さらっと読めて読後感もそこそこいい、普段あまり読書しない人が読むにはいい本、だと思います。
(72点)
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実は結構探してました。瀬尾まいこさんの本って、児童室の棚にあったり一般の棚にあったり、一般閲覧室の「ヤングアダルトコーナー」にあったりして、あるはずなのに見つからないことがたまに・・・。
図書館の神様 (2003/12/18) 瀬尾 まいこ 商品詳細を見る |
思い描いていた未来をあきらめて赴任した高校で、驚いたことに“私”は文芸部の顧問になった。…清く正しくまっすぐな青春を送ってきた“私”には、思いがけないことばかり。不思議な出会いから、傷ついた心を回復していく再生の物語。 「BOOK」データベースより
この「私」。ずーっとバレー部で、清く正しくまっすぐに、不正や不正直なことはせず、高校3年まで生きてきたのだけど、引退直前で事件がおきて、そのままバレーをやめてしまって。ところがそれまで一本気だったものだから、バレーに変わって打ち込めるものが見つけられず、「教師になれば部活の監督やコーチにとして別な形でバレーに関われるかも!」などという本末転倒な理由で教師になってしまった馬鹿女。(と、言わせてくれ・・・)
冒頭から、結構嫌な感じでした。自分の価値観しか認められない。勝負は勝たなきゃ意味がない。部活は強くなるためにやる。スポーツの魅力を一度知ったら、そこから離れられないに違いない。
・・・何馬鹿なこと言ってんの?
ところが、この私と相対する、たった一人の文芸部員、垣内くんがとてもとても、いい感じなのです。
とにかく文学が大好きだから文芸部に入った。毎日新しい言葉と出会うのはとても楽しい。他人の理解は得られなくても、どうでもいい。
この飄々とした感じが、ストーリーを支えています。
完全にいやいや教師をやっていた私も、垣内くんの影響で若干ながら本を読むようになり、文章で表現することの楽しさを知り、だんだん教師らしくなってきます。
同時に、学校の外、恋人や兄弟との関係も彼女を変えていきます。
本の帯には、「再生の物語」と書いてあるけれど(それは流行かもしれないけれど)、そういう話ではなくて、「自分の中の正しさが世間中全部の正しさと一致するとは限らない」という当たり前の事を、一年かけて受け入れる話です。
主人公の「私」が、最初あまりに子供でいらいらするのだけど、その分ラストの成長を感じます。絶妙。
(72点)
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