TOP 200609


「てるてるあした」 加納朋子

これはミステリなんでしょうか。この前作「ささら さや」はミステリなんだけど。カテゴリわけって難しい。

てるてるあした てるてるあした
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2005-05

加納朋子 幻冬舎

高校進学直前、親が作った借金のせいで夜逃げすることになり、遠い親戚を頼って佐々良市にやってきた照代。無事住むところは手に入れたものの、居候先のおばあちゃんからは「さっさと一人立ちしろ」と口うるさく言われ、肩身の狭い思いをすることに。その上、正体不明のメールが届いたり、幽霊が見えたりと大変なことばかり。実は幽霊の正体は…。

これは、照代のキャラクター造形が上手い。どこにでもいる、普通の、世間知らずでちょっと自己中心的な女の子。世間知らずというのもちょっと違うかも。普通に中学生生活していれば、暮らすのにどのくらい物入りで、そのためにはどのくらい収入がないと駄目だとか、年を取って老人の域に達すると、生活上どのくらい変化するのかとか、知らなくてもぜんぜん問題ないもんね。親掛かりで生活していたら、急に「夜逃げするよ」とか言われたって、そんなの私のせいじゃない!としか反応できなくても当然。

でも、そこで終わらないのがいいところ。短期でも何でも、働くことを覚えて、進路を決めて、勉強して、色々あきらめるところは割り切って、進んでいく。

人によっては、ご都合主義とか、甘いとか、いわれかねない展開だとも思うんだけど、私は好きです。

カテゴリ:加納朋子
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「街の灯」 北村薫

ちょっと間が空いちゃいましたが続きました。

街の灯 街の灯
価格:¥ 500(税込)
発売日:2006-05

北村薫 文春文庫

舞台は昭和7年。士族出身の上流家庭の令嬢・花村英子が主人公。彼女を女学校に送り迎えする為に、女性運転手別宮みつ子が勤め始める。ところがこの別宮さん、近代風の美人で、武道の腕も立ち、博識で、語学にも優れている、らしい。(はっきりそう書いていないところもある)

となれば、「今日、学院でこんなことがあったの。不思議よね」「それはこういうことなのではありませんか?」という展開になるのが王道ですが、そこはさすが北村薫、一筋縄では行かない。このシリーズ、探偵役は主人公の英子自身。

この主人公が悪いわけではない。はきはきとして、年齢の割に聡明で、頭の回転も速く、多少世間知らずなところはあるが(この時代、女学院に通っている生徒が世間知に長けているわけがない。彼女は開放的な家風もあって、ましな方)、それでも知的好奇心にあふれ、行動力もある。

でも、先日書いた「条件」からは微妙に外れるんです。なぜか。ううん、「謎が一見謎ではない」から、かな。

新聞記事に載ってた二つの事件の関係は? とか、なぜ彼女は映画の上映中に死亡したのか? とかは、主人公が不思議に思って色々考えたからこそ「謎」として立ち上がってくるわけで、別に放っておいても主人公には関係ない。でもそこで主人公は「物のとらえ方について」を学習していく。ミステリでもあるんだけど、少女の成長物語。

で、枠から外れてるからつまらないのか、というとそんなことはない。絶品、読むべし、とまでは言い切れないものの、十分佳品。面白い。

一つの枠で全てをはかれるほどミステリの奥は浅くない、ということで。

余談。このタイトル、チャップリンの映画から来てるんですけど、私は何度見ても日高晤郎の「街の灯り」を思い出す。北海道外の人は堺正章の方が有名かも。

カテゴリ:北村薫
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「空飛ぶ馬」 北村薫

昨日つらつらと書いた「日常の謎」

考えてみると、私が最初に読んだ日常の謎のお話は、これ、なんですよね。

空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
(1994/03)
北村 薫

商品詳細を見る

確か、これにやられてシリーズを続けて3冊買った覚えがあるんで、奥付から考えても、2000年前後の事だと思う。そのすぐあとに宮部みゆき氏の「地下街の雨」とか「返事はいらない」だとかも読んだけど。

で、2000年ごろならもうすでに、加納朋子氏も、若竹七海氏も、北森鴻氏も世に出てる訳で、もちろん彼らの作品も好きなんだけど、でも、私は最初に出会ったのが北村薫氏で、「幸せな出会い」をさせてもらったと思ってる。

このシリーズ、ミステリなんだけど、その前に女子大生の「私」の私小説になっている。本好きで、恋愛にちょっと奥手で、落語が大好きで、着るものには執着がないけど本代を削るのは嫌で、そういうおとなしめの女の子が、落語家の円紫師匠に出会って、手品師が空中から鳩を出すように、円紫さんがちょっと不思議な出来事から人の善意や悪意やらを「こうかもしれませんね」と出してくれるのを見て、少しずつ大人になっていく、そんな話。

(自分で思ってるより熱くなってるぞ? なんだこの長文は)

これは、文章がいい。朝早く目覚めて、上機嫌で大学にいき、掲示板を見たらお目当ての講義が休講。そんな場面で、いきなりおしょうゆの話が出てきたりする。その、ちょっと外し加減が、いい。

あと、お化粧の場面。「父の心が本当にそれを許すまで、私は口紅を引かない。」この、かたくなで美しい心。でも、北村氏はさらっと、さりげなくかいちゃうんだよね。

そして、鮮やかな謎。雨の降りしきる暗い公園にたっている赤い雨合羽を着た少女。喫茶店で砂糖壺を前に悪巧みをする3人の女性。どれを読んでもその場面が浮かぶような、的確な描写がいい。

と、いうわけで、「面白いと思う日常の謎の条件」は、このシリーズの影響を強く強く受けてます。同じ北村氏のシリーズでも、「街の灯」なんかはちょっと微妙に外してる気がするんで、そっちについても書こうと思ったんだけど、長くなっちゃったんで、次回。

続く。

カテゴリ:北村薫
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日常の謎についてあれこれ。

「日常の謎」系ミステリーといえば、北村薫氏の「円紫さんシリーズ」を筆頭に、生活の中であれ?と思ったことを、観察力と洞察力に優れた探偵役が解決していくものです。私の大好きな形式です。

たとえば、「地方の新聞が定期的に庭に投げ込まれているのはなぜ?」とか、「まじめな女生徒がよりによって自分のおばが勤めている店で万引きをするのはどうして?」とか、「独居老人が自室で亡くなった枕元に、まだ時期が来てない桜の花が満開に咲いているのはなぜ?」とか、そういう話。ほとんどが短編で、連作ものも結構あります。

で、私がいい!と思う条件は以下のとおり。

 

1・主人公(語り手)に、生活感がある。

 生活感というか、実在感。「こんな人いるいる」と思えないと、すごく全体が嘘っぽくなっちゃう。「日常」の香りがして欲しい。どんな小説でもそうなんだろうけど、事件を説明する為の狂言回し、みたいなキャラクターより、個性がしっかりしてて、ちょっと失敗なんかもして、「人間」っぽいエピソードの一つもあると、ぐっと作品世界が身近になる。

 

2・探偵役に、個性がある。

 別に変人が良い、とかいう意味ではなくて。日常の謎系の探偵役って、「私立探偵」とか「警察官」とかじゃなくて、普通の、市井の人のほうが圧倒的に多いじゃないですか。で、語り手に比べると、私生活があまり出てこなかったりする。語り手と会ってる時しか作品中に出てこないんだから、当然といえば当然。で、その短い間に、キャラクターとして「立って」くれないと、これまた「謎解きマシーン」になってしまうでしょう。「集中するときはグラスを磨く」とか、「子供には甘々」とか、些細なことの積み重ねって大事。

 

3・つまり、「小説」としての部分を多く持っている。

 一言で言うと、「人間が描けている」ほうが断然面白いってこと。

 

4・謎が印象的である。

絵画的、といってもいい。「誰も触れることの出来なかったケーキにナイフを入れたら、中から指輪が出てきた」場面とか、想像すると楽しくないですか? 「観光に行って車に戻ってみると座席カバーがなくなってた」とか、「子供がタンポポの絵を真っ白に塗りつぶした」とか、まあ些細な謎といってもいいけど、その場面が浮かぶような、そんな謎が、いい。

 

5・文章が平易で、滑らかである。

漢語や難しい言い回しだらけだと読みにくくないですか? そういう文章が、「日常」を際立たせるのに役に立つとは思えないんです。

 

この文中に出てくる例には、全部元作品があります。全部わかった人、私より読書フリークですね?

カテゴリ:ちょっとひとりごと
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「ハートブレイク・レストラン」 松尾由美
ハートブレイク・レストラン ハートブレイク・レストラン
価格:¥ 1,575(税込)
発売日:2005-11-19

松尾由実 光文社

フリーライターの真衣は、近所のファミレスで仕事をするのが日課。でもここ、普通のファミレスと違って、店員の雰囲気がなんだかうら寂しい。そんな折、常連のおばあちゃんと知り合いに。ところが、このおばあちゃん、実は幽霊で、しかも名探偵だったんです。

松尾由実はまたやったよ。この人の書くミステリは、ほんの少し、枠から外れてる。舞台が妊婦ばかりの街だったり、探偵役が安楽椅子だったり。えっ、と思うんだけど、ミステリの骨格はしっかりしてる。状況説明も、伏線も、キャラクター造形も、謎の不可解さも、文句なし。小品を品よく並べた「日常の謎」系短編連作集。話を重ねるごとに進展していく主人公の恋も無理がなくていい。

すごくピンポイントで、「うだつ」の話が好き。こんなこといってくれる男の人がいたら好きになるかも。

カテゴリ:松尾由美
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「NO.6」 あさのあつこ

あさの氏が最近一般向けの本ばかり出してるんで、忘れられてないかなーと心配していた本。やっとでました。

NO.6(#5) NO.6(#5)
価格:¥ 998(税込)
発売日:2006-09-12

あさのあつこ 講談社YA!

「NO.6」という名の都市。エリートとして約束された将来を持つ紫苑は、雨の日に一人の少年を保護したことからエリートの資格を剥奪され、下級層の住む地域へ。それから3年、平穏に過ごしていたはずの紫苑。ところが正体不明の事件に巻き込まれ、市の管理下から逃げ出す。少年との再会。完全な街だと信じていNO.6に見え隠れするほころび。陰謀が、この町で進行しているらしい…。

近未来SF、でいいのかな。壁の中で悪いことをたくらむ大人、そんなことはかけらも知らず暮らす普通の人々、壁の外で生きていくのに必死な、善悪を考えている余裕などない人達、その仲間入りをしなければならなかった主人公、主人公に思い入れはあるものの、こんな都市をいつか破壊してやると決意している少年。

正直に言う。一巻が一番面白かった。これから何が起こるの? みたいな期待感が。

今回は…、ストーリーを進めることよりも、酷薄さ、残酷さ、そういうものを実感させる為の書き込みが多くて、必要性は感じるが、面白かった、と手放しでいえるものではない。ジャンプの為の助走段階。

しかし、ナチュラルなのか、狙ってるのか、もともとそういう資質の持ち主なのか、今回やたらとBLファンが喜ぶ描写、多くないですか〜? バッテリーも時々そうだけど。

この本、来年、講談社文庫で出るそうです。装丁、好きだったんで、よいところを生かしてくれるつくりになるといいなと思います。

カテゴリ:あさのあつこ
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「京&一平シリーズ」 神谷悠

神谷悠 白泉社文庫 京&一平シリーズ8

幻迷宮・双迷宮 (白泉社文庫―京&一平シリーズ (か-6-8)) 幻迷宮・双迷宮 (白泉社文庫―京&一平シリーズ (か-6-8))
価格:¥ 710(税込)
発売日:2006-09

白泉社では時々、ミステリーの快シリーズが生まれることがあるけど、これもその一つ。(野間美由紀・パズルゲームシリーズが有名かな。パタリロなんかもびっくりするような謎解き物をやることがあるけど)

お坊ちゃまで冷血で毒舌、でも記憶力抜群で美形な京と、田舎の大家族の長男で家事の天才の一平が、不動産屋のミスから同居することになって、巻き込まれるいろんな事件を解決していくうちに絆が生まれ、お互いに変化していく、連作ミステリー。

作品のほとんどが読みきりで、(最大でも2ヶ月連続前後編)ページ数に限りがあるので、それほど入り組んだ謎解きとかはありません。何より少女漫画なので、駄目な人は絵柄から駄目だろうし、ホモでもないのに何年も同居してるなんて信じられない、といった批判の声を聞いたことも、ある。ボーイズラブものではないけれど、ある程度その手のものに理解がある人じゃないとつらいかも。

最初の話なんかは、勢いで描いちゃいました〜みたいな、キャラクター的にかなりうすっぺらいところがあるんですが、通して読むとちゃんと少年の成長物語になってるところが私は好き。もちろん一つ一つの話も面白いけど。

そして驚くことに、このシリーズ、まだ続いています。一番最初が平成3年作なので、かれこれ15年。すごいよね。

カテゴリ:まんが・コミック
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「戌神はなにを見たか」 鮎川哲也
戌神はなにを見たか 鬼貫警部事件簿―鮎川哲也コレクション
価格:¥ 820(税込)
発売日:2001-12

鮎川哲也 光文社文庫

ミステリの世界って、よそよりも特に、前の作品からの流れがあるし、(トリックとかもそうだ)新しい作品を読んで面白いと思っても、何年か先に出た本を読んでみたら作品の構造が同じだったりして、となると作品の評価も変わってきちゃうんだよね。出版されている全ての本を読むのは不可能でも、せめて古典と呼ばれる作品くらいは目を通しておきたいな、と、「古典は30代のうちに読む!」という目標を立ててみた。海外だとクイーン、クリスティ、カー、クロフツ、とそうそうたる名前がすぐ思いつくんだけど、国内ってどこまで古典? 戦前作家の作品はほとんど読む手段がなかったりするし…。

で、とりあえず鮎川氏。三番館シリーズの軽快さも捨てがたいが、まずは豪華絢爛なこれ。

幻の推理作家(いくつかの作品を戦前発表したものの消えていった作家たち)の足跡を追う話、江戸川乱歩生誕碑、推理作家協会のレリーフ、写真を使ったアリバイトリック、二人一役、アナグラム、死体の移動、とこれでもか! とアイディアを盛り込んだ作品。

誰が犯人か? どんなトリックか? と考えながら読んでいくのがたまらない。探偵役は刑事なので、こつこつと一つずつ他の可能性をつぶしていく話。それが面白いんだけど、名探偵ものを読みなれている人にはつまらないかもしれない。もったいない。

カテゴリ:鮎川哲也
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「τになるまで待って」 森博嗣
τになるまで待って τになるまで待って
価格:¥ 945(税込)
発売日:2005-09-06

森博嗣 講談社ノベルズ

世間ではλまで話が進んでいるようですが、私は未だτ。

いやあのね、森博嗣さんはすごい人だと思うんですよ、「F」を読んだときとかすごく驚いたもんね。しばらくはむさぼるように集めたりもした。すごく熱烈なファンがいて、バリバリ新刊を出す、一線の作家さんだと思う。

でも…でもね、いつからか、私この人の本読むの、しんどくなってきちゃったんだよね。気力十分の時しか読めない。

実は原因はわかってる。これ一冊だけ読んでも面白くない、から。

前段となるシリーズがあって、そっちでキャラの立った登場人物を使ってて、もちろんそのシリーズも読んでるし、話としてわからないわけではないんだけど、じゃあこれ一冊をどう評価すればいいか、というと、わかんないんだよね。

すごく長い小説のひとつの章、という話でした。森博嗣さん初心者には決して薦めません。シリーズが完結して、通して読んで、それからやっと評価をくだす本だと思います。

というわけで、これ以上内容については語れません。トリックがどう、とか言い出したら「違う読み方」になりそう

カテゴリ:ま行・その他
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「ななつのこ」「ななつのこものがたり」 加納朋子
ななつのこ ななつのこ
価格:¥ 546(税込)
発売日:1999-08

加納朋子 創元推理文庫 再読

短大生入江駒子が、本屋で一目ぼれした短編集を読み、その作者・佐伯綾乃にファンレターを書く。ついでに、「最近こんな不思議なことがあって…」と、書き添えると、何と返事が来て、おまけに手紙に書いた謎の解決までしてくれた。それから駒子は不思議なこと、割り切れないことがあるたびに手紙を書き、佐伯と交流を深めていく…。

日常の謎系の、短編集。全7話の一話ずつに、短編集から1編が挿入されていて、事件の真相にも絡み合っている。

私、こういう優しい話好きだわ、やっぱり。程よく上品で、でも元気で、しっとりした語り口調とかが。北村薫氏の話が好きなのと一緒。

で、なぜこれを読み返したかというと、これを読んだからなのでした。

ななつのこものがたり ななつのこものがたり
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2005-09-30

「ななつのこ」に出てくる短編集を、お母さんが、我が子に一つ一つ寝物語として語っていく、という趣向の話。これはイラストがいい! ちょっと昔の日本の田舎、パステル調の優しい色使い。

どうせならぜひ両方セットで。

カテゴリ:加納朋子
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