TOP 200611


「左手に告げるなかれ」 渡辺容子

そういえば「ハードボイルド」に分類される本で好きなやつが本棚にあったぞ、と引っ張り出してきた本。これもハードボイルドなんだ…。ということは桐野夏生の「顔に降りかかる雨」とか乃南アサの音道貴子シリーズとかもハードボイルドなのか。いまだにカテゴリわけがよくわからない。

左手に告げるなかれ 左手に告げるなかれ
価格:¥ 700(税込)
発売日:1999-07

講談社文庫 再読

スーパーで万引き犯を捕まえる仕事をしている主人公・八木薔子の元に刑事がやってくる。3年前に別れさせられた不倫相手の妻が殺害された、という理由で。確かに不倫相手を挟んで彼女とは友好とはいいがたい関係だったが、3年間もあっていない相手の殺人容疑をかけられた薔子は、容疑を晴らすべく、真犯人を探し始める…。

好奇心は猫を殺すというけれど、この作品の主人公はまさにそんな感じ。途中で、「あ、私は容疑から外れたな」と気付く場面がある。そこで犯人への追求をやめて、連絡を取り合うようになった元不倫相手との関係に逃げ込んでも不自然ではないのに、乗りかかった船というか、最後まで追わなくては気がすまない。戦う女。カッコイイ。

それでもって、渡辺容子のいい所は、保安係なんていうよくわからない職業を、身近に感じさせるところ。万引きってこんな感じなんだ、捕まえる側にはこんな苦労があるんだ、と思って読むのも面白い。

脇役もいい。司令官の坂東がいい。強くて怖くてでも情に厚くて。なぜか渡辺氏の作品に出てくる主人公の相手役の男はくたびれている中年男が多いんだけど、強い女たち(主人公含む)と対照的でいい。

ラストシーンは、衝撃的。ぜひ読んでほしい。

カテゴリ:わ行・その他
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ガールズ・ブルー あさのあつこ
ガールズ・ブルー ガールズ・ブルー
価格:¥ 500(税込)
発売日:2006-11

文春文庫

ちょっと程度の低い高校に通う主人公と、その友達の、高2の夏の物語。

要約しちゃえばまあ、それだけの話なんだけど、だけ、で終わってない。

女子高生が書いた同じような話は、いくらでもある。日記風な、そのときじゃないとかけない文章ってのはこういうやつだろうな、と思わせるヤツが。

あさの氏は、もういい年で(失礼)、そういった作品とは一線を画していると思う。女子高生の、不安定な気持ちとか、無邪気さの影の残酷さとか、将来の不安とか、他人から見た自分たちの立ち位置とか、なんでこんなにわかるの? と思うほど鮮やかに描いて、でも感情に流されてない。酷なところも、醜いところも、しっかり書いてある。それでいて汚らしくない。性的な描写があっても、えぐさはない。

やっぱりあさの氏にはこういったヤングアダルト系のものを書いててもらいたいなあ。一般路線も駄目とはいわないけど、時々このアダルト描写は必要なの? と思える部分があるのも引っかかるしね。

カテゴリ:あさのあつこ
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「建築探偵」シリーズ 篠田真由美
未明の家 未明の家
価格:¥ 730(税込)
発売日:2000-01

講談社ノベルズ・講談社文庫

この本をはじめて読んだのは、かれこれ5年前くらいになるのかな。当時の感想は、「この人絶対少女漫画好きだわ…」みたいな、的外れなものだった、と記憶している。

本当は美形なのに自分の顔が嫌いでいつも顔を隠している主人公、その助手の記憶力はいいが世間からはずれた少年、清純に見えて芯の強い少女、押し出しの強い迫力美人、偏屈なおじいさん。

これ、どこかで読んだことがあるような気、しませんか?

もちろん内容はそれだけじゃなくて、「建築」に関わる人達の思いを解きつつ、現状の問題を解決する、たっぷり読み応えのある良書になっているんだけど。

で、2冊目、3冊目と読み進んでいって、化けたな、と思ったのが5冊目。「原罪の庭」。

順に読んでいくと、どんどん書き慣れて読みやすくなっているのだけど、それを超えてジャンプした作品。

主要人物の一人の過去をテーマに、あの時何が起こって、誰が何をしたのか、その根底にあったものは、と、親子の愛情を描いてます。どきどきしながら読んだ。今読み返しても、苦しくなったり悲しくなったり。

「未明の家」〜「原罪の庭」〜「Ave Maria」だけは順を守って読んだ方が良い、とおすすめします。あとは多少ずれてもいいかな。第3部は出来ればそれまでの本を読んでからの方がいいかな。

第3部の2作品についてはまた今度。続く。

カテゴリ:篠田真由美
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英雄先生 東直己
英雄先生 英雄先生
価格:¥ 1,785(税込)
発売日:2005-12-21

角川書店

のっけから失礼なんだけど、私にとってこの人、「ローカルテレビに時々出てるヒゲでめがねの酒好きのおじさん」でした。エッセイ集くらい読んだことあるかな、でも、作家としては意識してなかった。

ところが、いつもお世話になっているペンギン店長さんが、この作家さんをおすすめらしい。じゃあ、読んでみなくちゃな、と手に取ったのがこれ。

教え子との交際、ホームレス(実は違うのだけど)殺害事件、マルチまがいの宗教、連れ去り事件、謎の雑誌記者、と盛りだくさんな内容で、ぐんぐん読ませる。主人公の高校教師が「俺の人生所詮こんなもん」とさめているようで、そうでもなかったりするところがまたよかったり。カテゴリわけすると「ハードボイルド」になるのかな、帯には「ユーモア・エンタテイメント」って書いてあるんだけど、実はあまり読まないジャンルなんで、ちゃんと評価しきれないんだけど、でも、面白かったわ、これ。

ストーリーとして解決する落しどころと、主人公が求める結末が微妙にずれているせいで(一人称だとこういうこともある)、ラストがいまいちすっきりしなかった気もするんだけど。登場人物がどれもこれもちょっとひねくれてる加減とあってて、納得できるし。

とりあえず、出来るだけ早くもう一冊読んでみよう、と思わせる作家さんでした。

カテゴリ:あ行・その他
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氷菓 米澤穂信
氷菓 氷菓
価格:¥ 480(税込)
発売日:2001-10

角川文庫

先日に引き続いて米澤氏。

姉の命令で「古典部」に入ることになった奉太郎、その推理力を買われて、古典部が学校祭に発行している文集の謎をとくことに。

時々、こういう風に出版順をさかのぼる読書をすることがある。今回は、この本を読んで、すごく納得、した。

ああ、こういう本を最初から書いてる人なんだ、って。

この作品に出ているキャラクター造形。そのまま進むと、「小市民シリーズ」になったり、「さよなら妖精」になったりするんだろうな。小柄で毒舌な女の子、とか、一見清楚だけど好奇心の塊みたいな女の子、とか。

小市民シリーズはともかく、さよなら妖精の方は、私の中で点数が低かったんです。この本はミステリなのか? あそこに謎解きを入れる必要はあったのか? って。

読みどころが違うってこと、なんだろうな。学園小説として読めば面白い。「氷菓」を読んでから読めば評価がかわったんだろう、というのは別に駄洒落ではなくって。

この本の最後の謎解きの、なんて鮮やかなこと。そして切ないこと。高校生でなければおこりえない、悲しさ。

角川系のライトノベルは完全に守備範囲外でした。脱帽。

カテゴリ:米澤穂信
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小市民シリーズ 米澤穂信
春期限定いちごタルト事件 春期限定いちごタルト事件
価格:¥ 609(税込)
発売日:2004-12-18
夏期限定トロピカルパフェ事件 夏期限定トロピカルパフェ事件
価格:¥ 600(税込)
発売日:2006-04-11

創元推理文庫

雑誌で何作か読み、「こんな感じの連作短編なんだ〜」と購入を先延ばしにしていたら、実は長編になってるんだよと聞いてあわてて購入した本。先入観で判断してはいけません。

推理癖があって過去に苦い体験をした小鳩君が、高校入学を期に、同じ志の小山内さんと、清く正しい「小市民」を目指す話。しかし性癖というのはなかなか解消しないもので、やはり目の前に謎があると推理してしまう小鳩君は、「小市民」になれるのか?

このキャラクター造形が好きかどうかは個人の好みで分かれるとして、私が残念なのは、作中に出てくるスイーツがあんまりおいしそうじゃないこと。視点が高校生の男の子(甘いものは普通に食べるけど、格段好きというわけではない)にあるので仕方ないのかもしれないけど。ていうか、別にそれ自体は作品の質を下げているわけではないんだけど。

ミステリとしては、ライトノベル系のさくさく読める作品。2作目のほうがキャラクターがはっきりして面白いけど、1作目から読んだ方がいいでしょう。だんだん化けの皮がはがれていく様子が面白い。伏線の張り方、作品中に謎を提出する人間(犯人といいたいけど必ずしも犯罪者ではないので)の性格描写、このネタがこう落ちてなおかつ最後にこう繋がるのか! といったひざを打つ感じ、良質のミステリです。

さくさく読むのもいいけど、謎を解きながら読むのもいい。私は続編が出たら絶対買う。

カテゴリ:米澤穂信
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レイン・レインボウ 加納朋子
レインレイン・ボウ レインレイン・ボウ
価格:¥ 560(税込)
発売日:2006-10

集英社文庫

高校を卒業してから10年弱、同じソフトボール部(弱小・部員9名)で活動していた部員の一人が心不全で亡くなった。お通夜に再会した部員たちの、今の生活を描く連作短編集。

もちろん加納氏がただの短編集を書くわけがなくて、それぞれの短編には小さな謎とその解決が、そして全編通して、亡くなった元部員の死についての謎が根底に流れております。

とはいっても、実は殺人事件で、とかいった陰惨な話ではありません。

作中人物は大体25歳弱。高卒で就職したり、看護学校に行ったり、大卒で就職したりと、条件はさまざまだけど、おおむね就職して何年か経ち、会社の仕組みや同僚との関係を理解し始め、(一人だけ結婚して二年という人がいるが、条件は一緒)自分の人生の先が見えてきて、本当にこれでよかったの? と悩みだす年頃。

この登場人物が、なんだかんだいっても、実に前向きな人達ばかりなんだな。トラブろうが、悩もうが、最終的にはちゃんと進む方向を見つけられる。

日常の謎系のミステリとしても秀逸ですが、同じ年くらいの女性が読むと違う感慨があるかもしれない。おすすめします。

(私は年取りすぎて、そんなころもあったなあと振り返る立場ですが)

男性が読むとどうなんだろう? 

カテゴリ:加納朋子
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東京公園 小路幸也

昨日市内で一番大きな本屋にて購入。ダンナが出張で留守だったので、子供たちを寝かしつけたあと、ゆっくり読む。至福。

東京公園 東京公園
価格:¥ 1,470(税込)
発売日:2006-10-28

公園で家族連れの写真を撮るのが趣味の主人公・圭司が、ある男性に「妻と子供が公園にいる姿を、尾行して撮影して欲しい」と頼まれる。引き受けたものの、どうやら彼女は撮られていることに気付いてるみたいで。圭司の同居人や姉、勤め先の店長など、心優しき人達が織り成す暖かな人間模様。

いや、探しただけの価値はありました。

この人の作品は、どれも、暖かくて優しい。そして、独特の浮遊感というか、現実世界から一枚薄皮を隔てたような、夢の中の出来事のようなきらめきがある。よく考えるといくらでも生臭くなるエピソードが入っていても、それを感じさせない透明感と純粋さ、のようなものがある。

それでもって、多分この主人公は言葉で自分を表現することは不得手なんじゃないかな。写真が趣味だし。その主人公の一人称で進んでいくんだから、流れるように滑らかな言葉遣いとはちと違う部分もあったりして、でもそれがまたこの主人公の性格を表現していて。純粋さ? 純朴さ? 素直さ?

自分の語彙不足がひしひしと…。こんなありきたりの言葉じゃなくて、もっともっといい表現がある、ハズなんだけど、ああもどかしい。撃沈。

読んでいて心が穏やかになる本です。おすすめです。ぜひいろんな人に読んで欲しい。

カテゴリ:小路幸也
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