| 本所深川ふしぎ草紙 価格:¥ 540(税込) 発売日:1995-08 |
新潮文庫
一年の締めは大好きな作家の大好きな作品で。
深川に伝わる七不思議をモチーフに、江戸の町に起こる犯罪を描いた宮部みゆきお得意の人情物短編集。
捕物帳といってもいいようなつくりなのですが、ストーリーの主眼は犯罪ではなく市井の人の生活。一話ずつ主人公が違います。事件はというと、殺人事件だったり、押し込み強盗だったり、描きようによっては重苦しい話になりそうなものなのに、読後感のさわやかさ、心がほっこりする感じはさすが宮部氏。
全編通して解決に尽力するのは回向院の茂七親分。宮部氏の時代物ではほぼレギュラーに近い彼が出てくるのもファンとしては嬉しい。
短編集だからといって、あっさり終わるかというとそうではない、深い話も入ってます。大好き。
それではみなさん、よいお年を。
一日早いですが今月の〆。
読んだ本の総計48冊、
内訳 図書館本36冊・購入本8冊・再読本4冊。
先月よりだいぶ減っていますが、原因は「陰摩羅鬼の瑕」に時間がかかったことと(他の本3冊分くらい時間かけて読んだ)雑誌「ミステリーズ!」に耽溺していたからで(バックナンバーを読み直したりした)読書時間はさほど減っていないだろうと思われます。
今月のあたりはやっぱり「私を離さないで」カズオ・イシグロ。
「日の名残」を探しているんだけどまだ入手できず。
あと、ブログには出てこないけど「ファンタージェン」や「ペギー・スー」なんかの児童書もまとめて読みました。いい児童書は大人の目にも面白い、を地で行く本。
今月はミステリらしいミステリをあまり読んでない月。来月はどうだろう? 面白い本にめぐり合えますように。
| 輪違屋糸里 上 価格:¥ 1,575(税込) 発売日:2004-05-27 |
文藝春秋
年末時代劇ってことで。
新選組がまだ「みぶろ」と呼ばれていたころ。島原で天神(太夫の下の位)を張っている糸里は、土方に恋心を寄せていた。その折、姉とも母とも慕う音羽太夫が、新撰組局長芹沢に無礼打ちにされてしまう。芹沢といえば商家への押し借りや酔った上での乱暴など、悪名高い人物だが、その胆力で周囲に一目置かれているのも本当。島原芸者としての伝統を受け継いだ女・糸里は、幕末という時代のうねりの中に、いやおうなく巻き込まれていく…。
浅田次郎氏の作品からはしばらく間をおいていたんですが、久しぶりに読むとやっぱり上手いなあ。どのくらいまで史実かは詳しくないんですが、同じ事件を書いたんでも、人の内面の描き方によってはこれほど違う話になるものか、とうならせられた作品。ただし。日本史や幕末に興味のない人、新選組についての知識がない人は解りにくい、かも。時代小説的に仕方ない部分もあるけれど。(これ以上詳しく説明してたらストーリーが堰き止められてしまうぎりぎりまでは説明あるんで)
そしてやっぱり、女性の描き方が上手い。糸里・吉栄・お梅・お勝ら女性陣がしっかりかけてなかったら、この話、薄っぺらくなっちゃうだろうな…。今時の女性とは違う芯の強さ、男を支えて操って、でも恋情には負けてしまったり、解っててもあえて騙されてあげる気丈さ。歴史の表舞台には出てこない部分だけに、作者の思い入れが伝わるような描き方です。
やっぱり読書ってのはいいよね。視界の狭まっていた自分に気付く場でもあるよ。ひとつのジャンルにとらわれずに、色々読むのも大事だよね。(これは一年の総括か?)
| ワーキングガール・ウォーズ 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2004-10-21 |
新潮社
世間では仕事納めだなんだと先生たちも走り回っているようですが、私の日常は変化なし。子供がおじいちゃんちに泊まりに行ってるせいで、かえって時間が出来た駄目な主婦。(大掃除しろよ…)
で、というわけじゃありませんが、働く女性たちの本。
37歳・大手音楽企業係長・独身・恋人なしの主人公、翔子。中間管理職とは言葉だけで、部下からの人望も上司からの信頼も薄く、これといって目標のないまま年だけ重ねてきた自分。部下とのトラブルで日常に嫌気が差し、思い立ってオーストラリアまで旅行に行くことにするが…。
30歳台目前・ハワイ大学出身・語学力を生かして旅行会社のオーストラリア支店に勤務・といえば聞こえはいいが現地パートと変わらない待遇に息苦しさを感じている、第二主人公愛美。翔子ととあるメーリングリストで知り合い、旅行の世話をすることになるが…。
この二人の女性の話が、変わりばんこに語られていく連作集。帯によると、「本格負け犬小説」らしいんだけど、言いえて妙。
最初の方では女性ならではの閉塞感、将来に希望がない感じ、一年かけてこれをやり遂げたという感慨もなく、ただ歳だけ重ねてしまった、というような疲労感みっしりの、文章的には軽いんだけどどうにもしんどい話なんですが、話数を重ねていくにしたがってだんだん吹っ切れていきます。確かに負け犬かも知んないけどさ、これで終わりってわけじゃないんだよ、って話。30代の女性にはリアルかも、ですが、男性陣の共感が得られるかは解りません。
しかし、柴田よしきさんってのは多才な人だよね。読むたびにカラーが違う。「太陽の刃、海の夢」なんかもすごく好きな話なんだけど。同じ作家の本らしくない。でもどれも女性を応援している話、というのが共通点かも。
この本のラスト一行がその象徴。
「負けないもんね。絶対に。」
| わたしを離さないで 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2006-04-22 |
ハヤカワ書房
クリスマスプレゼントにもらった本。雑誌でレビューを読んで以来気になっていたものの、なかなか入手できずにいた本でもある。多謝。
「介護人」として「提供者」の世話をしている主人公キャシーが、提供者の為の施設ヘールシャムで育ったころからの人生を振り返って語る話。
解説者の言葉を引用すると、
(本来なら内容について詳しく説明するのが解説の常道だがこの作品ではそれはしない、と前置きをした上で)この小説はものすごく変わった小説であり、作品世界を成り立たせている要素一つひとつを、読者が自分で発見すべきだと思うからだ。予備知識は少なければ少ないほどいい作品なのである。
これは至言。提供者って何を提供するの? とか、ヘールシャムって何のための施設? とか、考えながら読んだ方が絶対楽しい。
で、内容に触れないようにして語ろうとするとこれが難しいのだ。本当に。
この小説の基本的アイディアは、それほど珍しいものではないと思う。何作か読んだことがある。でも、こんな小説ははじめて読んだ。何がすごいのかって、主人公キャシーの、淡々とした語り口、かな。こんな人生を運命だと思うのはあまりに悲しい。でも、それを受け入れている。急流の真ん中に立ちすくんでも、いつか流されていくのは避けられないんだ、といったように。
各誌が絶賛、とか言われるとかえって読む気がなくなったりする天邪鬼な私だけど、この本はぜひぜひお勧めしたい。読んで欲しいし、今の世の中にも思いをはせて欲しい。
| 強運の持ち主 価格:¥ 1,300(税込) 発売日:2006-05 |
文藝春秋
恥ずかしながら瀬尾さんの本ははじめて読みました。
元OLの占い師、ルイーズ吉田は、ショッピングセンターの片隅で占いコーナーを開いている。恋人は、ルイーズが占った中で一番最強の運の持ち主。今日もルイーズの元へはいろんな悩みを持つ人が訪れて…。ほんわかした連続短編集。
主人公がいい。なんたって、霊感なんて持ち合わせていない、ただの女の子。最初は市販の占いの本で占いをしていたものの、だんだん「こういうところに占いに来る人はほんの少し安心したいだけなんだ」と悟って、相手に合わせたアドバイスをしていくところが現実的。はっきりいって、ものは言い様を体現している感じ。身なりに気を使っていない主婦に「少し明るい色の服を着るようにするといい事がありますよ」とか、よく考えると毒にも薬にもならないアドバイスなんだけど、心のよりどころをあげていい気分でかえってもらうのが主義。
だからといって、霊感とかを馬鹿にしているわけではないのがポイント。師匠のジュリエも、3つ目の短編の重要人物の武田君も、霊感か、それに近いものを持っている。でも、それを、そんなこともあるよね、くらいの受け取り方をしている。
肩肘張らない、自然体、といったありきたりな言葉が似合う主人公なんだけど、一冊通してみると、人物的に成長しているのがよくわかる。力を抜いた読書におすすめの一冊。
| 家守綺譚 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2004-01 |
新潮社
今調べたら文庫も出てるのね…。知らなかった。
今から大体百年位前、なくなった友人の父親から、空き家になっている家の守をしてくれないか、と頼まれた主人公。物書きを名乗ってはいるものの、懐が淋しい主人公は一も二もなくそのはなしに乗る。ところがその家、掛け軸から亡くなった友人の幽霊は出てくる、樹は自己主張する、不思議に満ちた家で…。
声を大きくして注意しますと、別にこれはホラーじゃないです。百年前、まだ電器よりランプの灯りのほうが主流だった時代、人々が自然に不可思議と寄り添って暮らしていた時代の日常を淡々と描いた作品。どうやら、先日の「村田エフェンディ滞土録」と同じ時代で、主人公同士は友人のようです。
日々の合間に、一話ずつ、ゆっくり読みたい作品です。特に何か事件が起こるわけでもないけれど、でも今よりちょっとゆっくりな時間の流れを楽しむ、そんなはなし。
続編が雑誌に掲載されたそうで、そっちも期待大、です。
| 生首に聞いてみろ 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2004-09 |
角川書店
2006のこのミスも発売されたというのに何故この本を読んでるんだろうと考えてみたり。
作者と同名の主人公法月綸太郎が出会った新たな事件。人間から直取りした石膏像で有名な芸術家・川島伊作の遺作、娘をモチーフにした作品の首の部分がお葬式のドタバタにまぎれて切り取られ持ち去られてしまう。誰がこんなことを? 調査に乗り出した綸太郎。しかし、事件はこれだけでは終わらなかった…。
昨年あちこちで話題になった作品。あらすじなんか私が紹介するのが恐れ多いくらい。
「トリックではない、ロジックだ」という言葉がありますが、今回その言葉どおりの端正なロジック作品。特にある「証拠品」の使い方が絶妙。私の愛するミステリの、ラストに向けて作品全部が収斂していく、あまりのない構成が絶妙。久しぶりに本格らしい本格を読んだ。こうでなくちゃ。
ただ。いたるところで感じた、「綸太郎、年取ったな〜」という感覚は、おそらく昔から読んでいた方なら同意していただけるんじゃないかと。作者ではなく、主人公の方。設定年に応じて年をとっていくシリーズだと、(有栖川有栖の火村シリーズとか)どうも作中人物の設定が変わらないのが不思議。もう30歳台も半ばなのに、浮いたはなしの一つもないのが不憫。(そして自分で悟っちゃってるのがまた…)世の中晩婚だといいますが、小説の中もしかりなのか。それとももともと、金田一耕介のようにずっと独身が標準なのか。う〜ん。
| きつねのはなし 価格:¥ 1,470(税込) 発売日:2006-10-28 |
新潮社
表題作「きつねのはなし」を含む和製ホラーファンタジー4作。
骨董屋でアルバイトをしていた主人公が、お得意様のところに届け物をしたついでに、ある取引をしてしまい、次から次へと取引は続く。主人公はこの連鎖から抜け出せるのか?
と、あらすじ紹介をしたらこんな感じなんだけど、これはストーリーを読む話じゃない。なんとも薄暗い空気とか、闇に潜んでいるらしい何物かとか、京都の冬の染み入るような冷たさとか、祭りの幻灯とか、そんな文中からあふれている雰囲気を読んで、ちょっとぞくっとしてみたりする話。
他3作は、関連性のあるようなないような、とりあえず同じ骨董屋は出てくるものの、主人は同じじゃないようだし、時代も同じかどうかわからない。
| 摘出―つくられた癌 価格:¥ 1,890(税込) 発売日:2005-09 |
新風社
うちのダンナが医療系の事務屋なので、医療系の本は結構読んでいる、つもり。
大学病院で、乳がんの手術が行われたが左右を取り違えて手術してしまった為に、やむなく両方切除することに。患者には「もう片方にもがんが見つかりました」と告げたものの、医師たちはそれが嘘だと知っている。しかし、細胞検査に出したところ、両方からがんが発見されて、怪我の功名となるかと思われたが…。学会の選挙、大学内の権力争いなどが絡み合って、事態は混迷し。
画像ではわかりにくいけど、この本、白いカバーに切込みが入っていて、内側の赤い部分がのぞくようになっている。傷口をイメージしたものだと思うんだけど、これが結構生々しくて、いい。最近こういうカバーとか帯に工夫を凝らした本が増えているような気がするんだけど、インパクト勝負なのかはやりなのか。魅力的な外見に見合うだけの内容があるのなら文句はないんだけど。
で、肝心の中身。医師が書いただけあって、リアリティとか、病院側の対応とかはいい。難しい病院用語もあまりなく、普通に読んで通じる。…んだけど、正直物足りない、かな。表面さらっと流れていっちゃった感じ。頭の中で考えた人物に語らせているような、台詞っぽい、芝居っぽい感じがします。(もし現実もこんな医師ばっかりなら、違う世界の人だなあ、と思うばかりです)
大学病院の内部をチラッとのぞき見たい、位の軽い気持ちで読む入門書としてはおすすめです。読みやすいんで。



