TOP 200701


コールドゲーム 荻原浩
コールドゲーム コールドゲーム
価格:¥ 700(税込)
発売日:2005-10

新潮文庫

中二のときの同級生が、次々と何物かに襲われた。どうやら犯人は当時のいじめられっこのトロ吉らしい。自分の身を守る為、トロ吉を探し始める主人公光也。しかし、探せば探すほど不穏な噂が聞こえてきて…。

実を言うと、読んだのは一週間近く前になるのです。しかし、「いじめっこ」と「いじめられっこ」についての昨年の報道についても記憶に新しく、自分の中にそれについて語ることがないな、と思いスルーしていたんですが。

読み終えて以来、毎日、怖い夢を見るのです。

何か得体の知れない怪物が追ってきたり、殺人現場を目撃したり。たまたまかもしれませんが、連日というのはちょっとただ事ではない。どうやら私の脳は「荻原浩」について過剰に反応するようです。

この小説は、怖いながらも切なく悲しく、読み応えのある作品です。ホラーではありません。

カテゴリ:荻原浩
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チョコレートコスモス 恩田陸
チョコレートコスモス チョコレートコスモス
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-03-15

毎日新聞社

芸能人一家に育った為、意識する前から舞台に立っていた女優、響子。演劇経験はないものの、演じるということに天性の勘を持つ飛鳥。二人の女優は、伝説のプロデューサーが立ち上げる舞台の主役を選ぶオーディションで顔をあわせる。演出家・学生劇団員・脚本家など、舞台関係者達が見守るオーディションの行方は。

…あらすじだけ書くと「ガラスの仮面」みたいだわ。

「小説」と「演劇」の相性は極めていいらしく、多くの小説で演劇が描かれてきましたが、これはすごい。すごいとしかいえない自分が歯痒い。恩田陸氏と言えば、SFっぽい作品の方が有名なのだけど、これはそういう要素はまったくなし。真っ向勝負。

しかし、すごいのは舞台のうえでの緊張した空気の描き方。これは漫画では出来ない、イラスト付きでも駄目、頭の中でイメージしながら読む小説というジャンルに感謝。

恩田氏ってのは引き出しが多い作家さんなんですねえ。こういう脚本を作品中で使いたい、というイメージどおりのものを探し出してくる(あるいはもう知識としてあったのかもしれないけれど)技量にも感心しきり。

読み終えてすぐでちょっと上手くまとまらない…。これは書かねば!という衝動に駆られた久しぶりの本。絶品。

(しかし、演劇にまったく興味のない人が読んでも多分さほど面白くないでしょう)

カテゴリ:恩田陸
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弥勒の月 あさのあつこ
弥勒の月 弥勒の月
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-02-22

光文社 再読

小間物問屋「遠野屋」の若おかみおりんが川に飛び込み溺死。調べを行うことになった同心・信次郎は、手下の岡っ引伊佐治とともに遠野屋に向かうが、そこの主人清之介の立ち居振る舞いに違和感を覚える。どうやらこの男、根っからの町人ではないらしい。その後、おりんの飛込みを目撃した男も惨殺される。伊佐治は調べに走り回るが、下手人は…。

半年くらい前にも読んだんだよね、この本。そのときもなんだかつまらない本だなあ、と思った。ラストが割り切れない感なのが駄目なのかな? とも思ったんだけど、今回再読して、そういう問題じゃない、とわかった。

多分私の時代小説の基準は宮部みゆき氏にある。特に江戸時代のものは。彼女の作品と比べてみたら、そりゃあたいていの新人は格下だよね、と思わないでもない。

でも。この作品の弱点は、そういう基準とは違うんじゃないかな。

あのね。伊佐治がつまんないんだよね。同心の信次郎も遠野屋の清之介も二十歳そこそこの若造、っていう設定で、語り手の一人である伊佐治は40歳台。多分半ば。なのに、貫禄がないというか、描き方がうすっぺらい。思いかえすに、他のあさの氏の作品も、貫禄のあるどっしりした大人というのが出てこない。年は多少いっていても、子供心を残した大人だったりする。「バッテリー」のおじいちゃんくらいかな、いい味出てるのは。でも、「いい脇役」くらいの位置だしなあ。

あさの氏が描く若い子たちには感嘆する。すごい。素晴らしい。その半分でいい、伊佐治が魅力的なおじさんだったら、この話、もっと面白くなってる気がするんだよね。

カテゴリ:あさのあつこ
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遠きに目ありて 天藤 真
遠きに目ありて 遠きに目ありて
価格:¥ 756(税込)
発売日:1992-12

創元推理文庫

これはもう古典の作品かな。文章にも、いくらか時代色があります。

真名部警部は、とあるきっかけで知り合った信一少年の希望に沿って、手がけている事件の内容を教えることに。するとこの信一くん、脳性まひのため言葉も不自由で、車椅子にのらないと移動できない体なのだが、卓越した推理力を見せ、難解な事件を解決に導いた。以後、何かあると真名部警部は信一くんに相談を持ちかけることとなり…。連作短編集。全5話。

「密室物」を中心にした犯人あてがメインの本。読み返してみると伏線の周到さが解る。安楽椅子探偵ならぬ車椅子探偵で、情報はほとんど警部が語ることになる。ということは、もちろん、信一くんが「こうじゃないかな」というときには読者にも犯人がわかっていいはずなんだけど、残念ながら全敗。はっきり言って、信一少年を探偵役にすえなくても、作品としての出来は一流。

この作品が書かれた当時(昭和51年)、今よりももっと「障害者」に対する世間の目は偏見に満ちていたわけで、よくこの作品を書いてくれた、と思いながら読んだ。真名部警部にしても、最初は信一くんが話すたびに「かわいそうに」とか「痛々しい」とか考えていた訳だし。「こういった子にしては」明晰だ、と思っていたのが、本当は俺より頭がいいんじゃないか、と考えを変える部分は心を打つ。

作中で出てきた文章で一番心に残ったのは、

(苦労してタイプを打つ信一少年を見た真名部警部が)この子には、これほどの苦労をしてまでも、伝えたい意思があるのだ。

と気付く場面。

障害というのは微妙な問題で、それぞれのケースでそれぞれの対応が必要になったりするんだろうけど、私は一番いいのは「普通に接する」事だと思ってる。同情しない、憐れまない、一個の人間として対等に付き合うこと。それは自分と同じ行動を要求することじゃなくて、背の低い人には高いところにあるものをとってあげるように、力のない人には重い荷物を持ってあげるように、心遣いは必要だけど。

そして、真名部警部もだんだん、自然に接するようになっていく。障害をひとつの個性のように受け入れて。道を一緒に歩いては歩道上の障害物が多いことに腹を立てたり、入り口が階段状になっている建物に文句を言ったりしながら。(当時、バリアフリーという概念はないので)

こういった部分が、作品の深みへと繋がっている。佳品とか傑作とかほめ言葉は色々あるけれど、私は「読まれるべき作品」だと評したい。

願わくば、今回の私の未熟な文中にある言葉が、実際に障害を持つ方の心を傷つけることがありませんように。

カテゴリ:た行・その他
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家守 歌野晶午
家守 家守
価格:¥ 660(税込)
発売日:2007-01-11

光文社文庫

昨日書いた「λ」についてやりすぎだったかと思い、フォローの意味も込めて「F」について書こうとしたのだけど、上手くまとまらず断念。近いうちに必ず。

で、息抜きがてら読んだ正統派ミステリ短編集。

帰宅した夫が発見したのは妻の死体。死因は窒息。家全体が完全に戸締りされた密室状態で、他人の出入りの余地はないため、ナイトキャップが顔にかぶさったのが原因の事故死と見られたが、捜査員の一人が不自然な点に気付き…。(表題作より)

「館物」系、密室物、謎のアルバイトなど、いろんな味付けをしつつテーマは一貫して「家」。それも人の住む家。そこでおきる事件(事故?)。

派手な作品ではない。むしろ地味。けれど端正な、王道のミステリ。伏線の張り方、ストーリーの展開、どれをとっても名手の手による作品だなあと思わせる。初心者が読むにも適してるかも。ときどきこういうのが読みたくなる。といっても古い感性の作品というわけではないので、ご安心を。

私が好きなのは「埴生の宿」。どこに向かってるんだ? と思いつつ読み進めた。トリックのさじ加減が絶妙。

カテゴリ:歌野晶午
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化物語 西尾維新
化物語(上) 化物語(上)
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2006-11-01

講談社

春休みに吸血鬼に襲われ、普通の人間からはみ出してしまった主人公・亜良々木暦は、どうやら怪異を呼び寄せる性質になってしまったらしい。知り合いが巻き込まれる怪異を知るたび、解決できる人を紹介し続けるが、それだけで終わらず解決に協力することになったりして…。一怪異ごとに一話の連作集。上下巻。

…すごくざっくりあらすじを書いてしまうとこれで間違ってない気もするんだけど、何か違う。多分足りないのは「萌え」要素。怪異に関わる知り合いが、「ツンデレ」だったり「委員長」だったり、その筋の人にはたまらない話になっているんだろうと思われます。

正直言うと、万人受けする話ではない。ストーリーがどうこう言うより、生き生きした会話を(作者いわく掛け合いを)楽しむ作品なので。感性がずれてしまうとちっとも面白くないんだろうし。若い作者の本。乙一のデビュー作もそう思いながら読んだっけ。

しかし、エンターテイメントとして質が低いわけではない。むしろよくここまで突き抜けてくれた、と思う本。

西尾氏にはこの方向でどんどん書いていってもらいたいです。

カテゴリ:西尾維新
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λに歯がない 森博嗣
λに歯がない λに歯がない
価格:¥ 924(税込)
発売日:2006-09-06

講談社ノベルズ

今回暴言ありありです!

内容紹介については今回はさくっとカット。

ええと、森氏について、私にはあまり思い入れがない。他とは違う作品を書く人だな、とは思うけど、出たらすぐ読むとかいう積極的な読者ではない。(ので、半年近く前に出た本を今頃読んでたりする)

で、感想。

これ、面白いですか?

少なくともこれ一冊読んで面白い本だとは思えない。既刊本のキャラクターに愛のある人じゃなければ。伏線を張っているのであろうと思われる箇所が随所にあるんで、多分シリーズが終わるころには腑に落ちるだろうと思うのだけど。

講談社ノベルスとしてはすかすかの活字の組み方も気になるし、そのくせ値段は一人前。それでも読む人がいるから出るんだろうけど、商売上手なのは作者か出版社か。

あちこちで書評を拾い読みした感じでは、最新刊はもう少し評価が高いらしい。それを読んでも面白くなかったら、もう森氏の本は読まないかもしれない。

カテゴリ:ま行・その他
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イレギュラー 三羽省吾
イレギュラー イレギュラー
価格:¥ 1,260(税込)
発売日:2006-06

角川書店

洪水の被害にあって、隣の市で避難所生活を送る蜷谷村の住人。全国クラスの素質を持ちつつ、部活動もままならない蜷高野球部のエース、コーキ。春の選抜に出場を果たすも、二回戦で惜敗したK高校のバッテリーとその監督。蜷高とK高の野球部監督が恩師と生徒の関係だったことが縁で、2校は甲子園に向けて合同練習を行うことになる。

いわゆる野球エリートと、型にはまらない本能の選手とが交流することで生まれる摩擦や変化を描いたユーモア青春小説。それはないだろうみたいな笑いもあり、本当にそれやっちゃうんですかみたいな期待感もあり、王道からはみ出しつつも離れすぎない良質の小説。

単に隣の町の高校同士という関係では絶対におこりえないトラブルが笑えるものばかりでいい。でも、その根底にある避難所生活、帰村の目途が立たない行き詰まり感、その中で高校生にかける村民の希望といったネガティブな感情もしっかり書いてあるのに重くなりすぎない。すいすい読み進むけど、「よかったね」だけでは終わらない。

正直、野球は興味ないんです。「バッテリー」も、野球部分より主人公の成長とかがメインになってるから素直に面白いと思って読めるだけで。12球団いえないし。甲子園常連高なんて全然知らない。

ですが、これは面白く読みました。馬鹿っぽくて。「オロロ畑」とか好きな人にお勧めです。あそこまで突き抜けてないですが。

カテゴリ:ま行・その他
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夜のピクニック 恩田陸
夜のピクニック 夜のピクニック
価格:¥ 660(税込)
発売日:2006-09

新潮文庫

金曜の朝から翌朝まで夜を徹して歩き続ける「歩行祭」。高校3年生になり、最後の歩行祭でひとつの賭けを実行しようとする貴子。彼女を嫌いつつ無視も出来ない融。融の友人で、彼のそんな様子が気になる忍。貴子の友人たち。他愛もない会話をしながら歩き続けるうちに、疲労はたまり、口数も少なくなっていく。何もおこらず、気ばかりあせる中、だんだんとゴールは近づいていく…。

去年さんざん話題になった作品。親本の帯にあるように、「ノスタルジーの魔術師が贈る、永遠普遍の青春小説」です。

作中のイベント、歩行祭って言うのは本当にただ歩くだけ。一日目はクラス別に、二日めは気の会う友人たちと。丸一日歩くために必要な道具をリュックに詰めて(ばんそうこうとか水筒・タオル・洗面道具とか)ひたすら歩く。私の出身高校にも似たような行事はあったけど、朝から3時くらいまでの、一日で終わるちょっと長めの遠足だった。ここまで強行軍なのはありなのか? と思いつつ読んだ。

ところが、やっぱり、いいんだよねえ。

たとえて言うなら、文化祭前のだんだん盛り上がっていく気持ちを思い出すような。忙しいし眠ってる時間はないし、体はきついんだけど、仲間との連帯感とか、夜で疲れててハイになってないと出来ない打ち明け話とか、些細なことで感動したり、泣いたり笑ったりする、そういう気持ちの高ぶりとか。まさにノスタルジー。今となっては遠い過去の、甘いような苦いような思い出をよみがえらせてくれるもの。劇的な何かを描くより難しいかも。

そして、いい本を読んだあと、その映像化作品を見るかどうかで悩むのです。…イメージが固まっちゃってるからなあ。

カテゴリ:恩田陸
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夏の魔法 本岡類
夏の魔法 夏の魔法
価格:¥ 1,680(税込)
発売日:2005-05-19

新潮社

癌を克服した主人公は、会社を辞めて田舎で小さな酪農の牧場を経営していた。そこへ15年前に離婚した妻との息子がやってくる。19歳になる彼は、引きこもりになっていた。「やり直したい、そのために仕事を手伝いたい」といいつつだらだらと過ごしていた息子だが、一頭の子牛の誕生を期に変化が現れる。

どちらかというとミステリ作家として有名な方らしいですが、この作品はミステリではありません。

「牧場」と聞いてイメージするものはなんですか。緑の草原、白い木の柵、青い空、のどかに草を食む牛たち…、そんな牧歌的な映像じゃないか、と主人公の高峰は言います。が、そんなのは幻想だ、とも。牛を放牧するために必要な草地の量はだだ広くて、それを満たそうとすると、牛の管理は大変になる、病気になっても発見が遅れかねない、費用だってかかる。養鶏場の鶏を考えればわかるように、経済としての家畜は管理されて過ごすものです。名前すら付けない。せいぜい番号で呼ぶくらい。

私が住む北海道ではもうちょっと条件が緩やかで、夜間はともかく昼間は草地に放して運動をさせるところが多いようですが、乳牛というのは文字通り「乳を出す牛」で、人間を考えてもわかるように、寿命が尽きるまでその役目を全うすることは出来ません。となると、やはりある程度の年齢のところで処分しないと、農家はやっていけない。(平たく言えば肉にしてしまうわけだ)その辺のからみを、解りやすく、感情移入しやすく書いてくれてるこの作品。大人が読んでも面白いけれど、少し大人になった子供にも(中学生くらいかな)読んでもらいたい、かな。

といっても、教訓くさい話ではありません。普通に、親子が対話を取り戻す話として読んでもおもしろいです。

カテゴリ:ま行・その他
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